韓国映画から透けて見える「真の指導者の条件」 高市首相、トランプ大統領の歴史的評価はどうなるか?
韓国で9月23日に公開され、公開11日目で観客動員200万人を突破した映画「暗殺者(たち)」を巡り、論争が起きています。背景には、朴正煕元大統領に対する韓国社会の評価の隔たりがあるようです。その時々の最高指導者をどう評価するのかについて、考えてみました。
「暗殺の陰謀論」と保守派の反発
私もまだ鑑賞していませんが、韓国メディアによれば、この映画は、1974年8月15日の光復節(日本統治からの解放を記念する日)の記念式典で、朴氏を暗殺しようとした在日韓国人の文世光(ムン・セグァン)が発砲し、朴氏の妻、陸英修(ユク・ヨンス)女史が死亡した事件を題材にしています。映画は当時の捜査当局の発表とは異なる可能性を示し、朴氏側や韓国中央情報部(KCIA)の関与を疑う仮説を登場人物に語らせる内容になっているそうです。これに対し、主に保守系の政治家らが強く反発し、謝罪や上映中止を求める声まで上がっています。一方、制作側は、特定の人物を事件の黒幕と断定した作品ではなく、創作として見てほしいと説明しています。
私もこの「文世光事件」について聞いたことがあります。当時、ソウルに勤務していた町田貢元駐韓公使によれば、犯人が大阪府警の派出所から盗んだ拳銃を使ったことから、韓国政府は日本側の責任も厳しく追及しました。陸女史は朴氏に麦飯を食べさせるなど、庶民感覚を忘れないよう進言する「青瓦台内の野党」とも言うべき人物で、国民の人気も非常に高かったそうです。朴氏は陸女史の死後、気力が衰え、仕事量も目に見えて減っていったといいます。少なくとも、当時の韓国政府の公式発表は、事件を北朝鮮や朝鮮総連の関与によるものと位置づけており、朴氏自身の関与を認定したものではありません。

韓国映画「暗殺者(たち)」=韓国映画配給会社HIVE Media Corpのインスタグラムから
韓国では21世紀に入り、民主化闘争前後の政治史を題材にしたフィクション、いわゆる「ファクション」映画が盛んに制作されています。また、朴槿恵政権期には、政権に批判的と見なされた文化人らへの公的支援を排除する「ブラックリスト」が作成されたことも明らかになりました。こうした政治と文化の緊張を背景に、過去の史実に政治的な解釈を加えた作品も生まれてきました。
「最高の指導者」か「残虐な独裁者」か
一方、朴氏だからこそ、論争が起きやすいとも言えます。朴氏は韓国の高度経済成長「漢江の奇跡」を主導し、北朝鮮の金日成主席との体制競争で韓国が優位に立つ基盤を築きました。その一方で、経済成長を推し進めるため、独裁的な政治手法を駆使しました。鉄道や道路などの整備を急ぐ過程では、土地収用や住民への補償を巡って強権的だったとの批判もあります。反発や混乱を抑えるための強権的な統治は、深刻な人権侵害をもたらしました。朴氏こそ、見る人によって「韓国史上最高の政治指導者」にも「残虐な独裁者」にも映るのです。
また、日本で拉致されたことでよく知られる金大中元大統領は、韓国内外で評価の力点が異なる政治家でもあります。日本を含む海外では「死刑判決を受けながら、最後は大統領になった民主化闘争のシンボル」として高く評価されています。ただ、国内では金氏の出身地である全羅道と、伝統的に保守が強い慶尚道との間で評価に大きな差があります。金氏が大統領だった時代、韓国の知人から「全羅道の人々は必ず『大統領様』と呼ぶのに、慶尚道の人々はDJ(金大中氏のニックネーム)としか呼ばない」と教えてもらったことがあります。
指導者には「国民の生命・財産を守る」という義務があるほか、将来にわたって国家を繁栄させていく課題もあります。朴正煕、金大中両元大統領は、手法も歴史的評価も大きく異なりますが、朴氏は韓国を高度経済成長に導き、金氏は日韓や南北の和解などに努力したと言えるのではないでしょうか。