中国「完勝」でハシゴを外された日本 対話を「売国奴」と罵る世論は悲劇を繰り返すのか
9月第4週(日本のシルバーウィーク)は、世界の現在地を知らしめる週になりました。米ニューヨークで開かれた国連総会の一般討論では、各国指導者がさまざまな主張を繰り広げました。イランのペゼシュキアン大統領は「決して頭を下げることも、ひざを屈することもない」と主張しました。ウクライナのゼレンスキー大統領は「プーチン(ロシア大統領)を止めるには、ロシアの財政と生産を止めなければならない」と訴えました。イスラエルのネタニヤフ首相の演説の際には、多くの国の代表団が退席しました。
ただ、世界の関心は国連総会よりも、9月23日からの習近平・中国国家主席の米国国賓訪問に集まりました。トランプ米大統領は大喜びでしたが、結果を見れば、中国の完勝だったと思います。
「競争」の文字が消えた 中国の「完勝」
トランプ氏はホワイトハウスでの歓迎式典の演説で「2016年の私の最初の選挙以来、習主席と私は友情を築いてきた。実際、相互の尊重と両国民の重大な利益に基づく真に素晴らしい友情だ」と語りました。東京大学大学院の李昊(りこう)准教授は「これこそ、中国が長年、米国に求めてきた発言だ。中国にしてみれば、『ようやくわかったか』という心境だろう」と指摘します。
米政権は従来、中国との関係を「競争」と表現し、「協力」を唱える中国の主張を退けてきました。ところが、米ホワイトハウスが9月25日に発表した米中首脳会談のファクトシートには、「競争」という言葉がありません。それどころか、5月の米中首脳会談を踏襲し、「両国は、尊重、公正、相互性に基づく建設的な戦略的安定関係を構築することで合意した」と改めて確認しました。
「安定なら悪くないのではないか」という見方もあるでしょう。ただ、米カーネギー国際平和基金の核政策プログラムとカーネギー中国に所属するトン・ジャオ上級研究員は、9月23日付でBulletin of the Atomic Scientistsに発表した論文で、「戦略的安定」について「明らかに破滅的な行動に対するレッドライン」などを具体的に定めるべきだと論じました。そのうえで、「中国は、日本や韓国などの非核保有国に配備される通常ミサイルが安定を脅かすと示唆している」とも指摘しました。中国に「戦略的安定」の解釈で主導権を与えれば、日本の防衛力強化や南シナ海での中国の違法行為を防ぐ活動などが、すべて「戦略的安定を脅かす行為」と解釈される可能性もあると言えるでしょう。
米側の公表資料では、台湾への言及がなく、朝鮮半島についても「非核化」という従来の目標にすら触れませんでした。また、「トランプ氏が習近平氏に米国製兵器の輸入に興味があるのか尋ねたことがある」とした、米国のデイビッド・パーデュー駐中国大使による証言がニュースで大きく取り上げられるなど、混乱が広がっています。現在、米国の安全保障の専門家たちは「トランプ政権が、日本列島から沖縄、台湾、フィリピンを経て延びる第1列島線から、小笠原諸島からグアム、パラオなどを経て延びる第2列島線にまで後退するのではないか」と真剣に懸念しています。
歴史認識で梯子を外された日本
こうして迷走するトランプ米政権を相変わらず頼ったのが日本と韓国でした。韓国は、直前まで日程が固まらなかった米韓首脳会談を、9月22日にニューヨークで実現させました。韓国政府関係者は、その背景に対米投資協議の進展があったと説明しています。韓国では最近、米テキサス州の約220億ドル規模のガス複合火力発電所建設への投資で前進があったようです。韓国外交ブレーンは「会談を投資で買ったようなものだ」と語ります。韓国が焦った背景には、トランプ氏が、ホルムズ海峡を巡る協力要請に韓国が「ノー・サンクス」と答えたと公言し、不満を示したこともあったようです。会談は約30分間で、李在明大統領がトランプ氏から公然と批判される事態は避けられました。
わが日本も似たり寄ったりの状況です。高市早苗首相は9月22日、ニューヨークでトランプ氏と会談しました。日本側には、米中首脳会談を前に対中認識をすり合わせ、日本の国益が損なわれないよう働きかける狙いがありました。ところが、ホワイトハウスが米中首脳会談後に発表したファクトシートには、「両首脳は、米国と中国が第二次世界大戦中に同盟国となり、戦争に勝利するため共に戦ったことを想起した」と記されました。

首脳会談に臨む高市早苗首相(左)とトランプ米大統領=2026年9月22日午後1時9分、米ニューヨークの国連本部、岩下毅撮影
トランプ氏が米中を第二次世界大戦中の「同盟国」と表現したことは、日本国内で反発や懸念を招きました。高市首相は米中首脳会談後の9月26日、トランプ氏との電話会談で「日本と米国は今や最も信頼し合える同盟国だ」と伝えたと説明しています。それでもなお、米中の歴史的な協力をファクトシートに盛り込んだ点には、トランプ政権の対日姿勢への不安が残ります。