新STARTの失効は「核兵器のない世界」に向けての更なる後退 日本への影響をどう見るか
米国とロシアの間で唯一残っていた核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新START)」が5日、失効しました。両国がそれぞれ射程の長い配備戦略核弾頭を1550発まで削減するなどとした条約の失効は世界に何をもたらすのでしょうか。外務省で軍縮不拡散専門官を長く務めた西田充(みちる)・長崎大教授(国際安全保障・核軍縮)は「新STARTが締結された2010年と比べ、世界の風景はまったく変わってしまった」と語ります。
――新STARTは核軍縮にどのような意義をもたらした条約だったのでしょうか。
西田充・長崎大教授(国際安全保障・核軍縮)=岡田玄撮影
新STARTは、(当時のオバマ米大統領が2009年4月、米国が「核兵器のない世界」の先頭に立つ決意を示した)プラハ演説を受けた条約で、「核兵器のない世界」を目指す流れの中での最初のステップでした。ただ、条約の内容は(配備されている戦略核弾頭の1550発までの制限など)核廃絶に向けての非常に小さいステップでした。
冷戦末期に合意された従来のSTARTの失効が数カ月後に迫るなか、暫定的につくった条約で、本格的な核軍縮交渉自体は、新START後に行われるはずでしたが、実現しませんでした。核軍縮の流れでは重要な文書でしたが、一時しのぎの文書だったとも言えます。
――プーチン大統領は27年初頭まで新STARTの延長を提案しましたが、検証措置の継続は提案していませんでした。
検証問題も米国がプーチン大統領の提案を受け入れずに失効を選んだ理由のひとつですが、一番大きい理由は中国による急速な核軍拡です。米国防総省は中国が2030年までに1千発の核弾頭を保有するとしています。米国にとって2010年当時は、ロシアの核を抑止する能力があれば、中国も抑止が可能でした。しかし、現代では中国とロシアという二つの核大国を同時に抑止する必要が生まれています。
検証の有無にかかわらず、新STARTはすでに時代に合わない条約になっていたと言えます。どうしても延長するというなら、「検証付きの1年延長」が必要だったでしょう。
――過去の米ロの相互査察は信頼できるものだったのですか。
米ソが冷戦時代から積み上げてきた実績がありました。当初は人工衛星による査察くらいしか手段がありませんでしたが、戦略的な安定性などで共通の認識を持ち、基地の相互訪問など査察の方法を充実させました。米ソの当時の軍備管理の関係者間の信頼関係は、現在の米中の信頼関係とは比べものになりません。
――中国は核軍縮にまったく応じる気配がありません。