物量で圧倒する中国、その空軍力はいかほどか? 海でも空でも着実に大きくなる脅威

インドとパキスタンの間で5月初めに生じた軍事衝突で、注目を集めたのが中国製戦闘機でした。昨今、急速に空軍力を高めつつある中国軍。以前から耐久力などの「弱点」を指摘されてきましたが、それを補うように実用化を重ねて実力を向上させています。その背景を探ります。
牧野愛博(朝日新聞専門記者) 2025.06.01
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5月初めに軍事衝突したインドとパキスタン。トランプ米政権の仲介もあり、5月10日に停戦で合意しましたが、話題になったのはパキスタン空軍の中国製戦闘機「殲(J)10C」によるインド空軍機の「撃墜」でした。現地からの報道が錯綜しているものの、米軍関係者もインド空軍のフランス製戦闘機「ラファール」が撃墜された事実を確認したそうです。

中国航空ショーで公開された中国の新型国産戦闘機「殲10」=2008年11月、中国広東省珠海

中国航空ショーで公開された中国の新型国産戦闘機「殲10」=2008年11月、中国広東省珠海

SNSでは「中国製戦闘機がフランス製戦闘機を撃墜した」という話題で持ち切りになりました。前回のニュースレターでは、中国海軍が艦艇数で米海軍を圧倒していると指摘しました。それでは、中国空軍に目を転じると、その実力はどれほどのものなのでしょうか。

元自衛隊幹部らによれば、中国軍は当初、ミグやスホイといった旧ソ連製戦闘機を使っていました。今回パキスタン空軍の撃墜で注目を集めたJ10は、2000年代初めに中国が初めて本格的な運用に踏み切った独自戦闘機です。ラファールやF15 Eなどと同じく、4.5世代戦闘機として位置付けられています。航空自衛隊の元幹部は「カタログの能力だけをみれば、J10Cとラファールは互角と言える」と語ります。中国空軍機の開発の特徴は、当初もくろんだ能力の7~8割しか達成できなくても実用化を進め、短いサイクルで開発を重ねていくことだそうです。

中国軍機の弱みと強み

そんな中国軍機の弱みはエンジンと言われてきました。これまで中国は、おそらく旧ソ連・ロシア製戦闘機を分解して研究開発したとみられています。空自の元幹部は「ロシア製エンジンは西側と比べ、推力や瞬発力では負けないが耐久性に欠ける」と語ります。例えば、航空自衛隊も採用しているF15戦闘機の場合、整備をきちんと続ければ、同じエンジンで約4万時間飛行することも可能だそうです。

ところが、ロシア製のスホイ戦闘機の場合、2万~3万時間飛行する間にエンジンを5回も6回も交換する必要があるのだそうです。中国製戦闘機も同じ問題を抱えている可能性があります。空自の元幹部は「J10の価格は30億円から40億円程度で、F16戦闘機の半分くらいと安い。ただ、ライフサイクルが短いし、エンジンも取り換えるため、結局高くつくかもしれない」と語ります。

一方、パキスタン軍のJ10Cがラファールを「撃墜」する際に使ったとみられているのがPL15空対空ミサイルです。最大射程は200キロとも言われています。これに対し、ラファールが装備しているミーティア空対空ミサイルの射程は100キロ以上です。元幹部は「PL15は通常のミサイルと同じロケットモーター方式だが、ミーティアは独自のエンジンを積んでいるから、射程はかなり大きいはずだ」とも語ります。

進む次世代戦闘機開発と米中の競争

こうしてみると、J10Cが本当にラファールを撃墜したのであれば、相当な戦果と言えるかもしれません。元幹部も「本当に撃墜が事実なら、J10Cにとって大きな実績になる」と語ります。

弱点を抱えるものの、最新技術では米国にひけをとらないとの見方もでている中国の実力。そこにAI技術が加わると、米国より優秀な戦闘機開発が可能になるかもしれない、と日本の空自関係者も警戒を強めています。牧野記者が深掘りします。

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