日韓の「文化侵略」に怯える中国 「マイクは剣より強し」か
高市早苗首相の「存立危機事態答弁」を契機に燃え上がった日中関係。火の手は日本の音楽や映画などにも及んでいます。上海で11月28日、歌手の大槻マキさんのステージが突然打ち切られた映像は衝撃的でした。浜崎あゆみさんの上海公演も中止になりました。「映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ」の公開や、ミュージカル「セーラームーン」の北京公演も中止になりました。上映中の劇場版「鬼滅の刃」の場合、上映館が急激に減っているようです。こうした現象についてどう読み解けば良いのでしょうか。
映画館の前に掲げられている「鬼滅の刃」の映画のポスター=2025年11月14日、中国遼寧省瀋陽市、岩田恵実撮影
中国は過去、日本や韓国、オーストラリアに対して様々な報復措置を発動してきました。日本や韓国に対する観光客の渡航自粛、日本に対するレアアース輸出規制、オーストラリアからの木材やワインの輸入規制などです。最近では第2次トランプ政権に対しても米国産大豆の輸入を一部ストップし、米国を慌てさせました。こうした措置は対象国の経済に痛みを与えました。
私はソウル在勤時のコンビニ店の経営者と話を思い出しました。このお店はソウルの繁華街にあり、中国人観光客でごった返していました。しかし、中国政府の「観光自粛勧告」により、客が激減し、経営に大打撃を被ったそうです。経営者は「アルバイトを全員解雇し、家族で店番をして何とか乗り切った」と語っていました。
自国が傷つかない措置から
そして中国の報復措置には一定の法則があります。
まず、中国に不利益にならない措置から始める傾向があるのです。観光客の渡航自粛を勧告しても、中国経済には打撃になりません。木材やワインも、オーストラリア以外の国から輸入することで補えます。中国は最近、米国産大豆の輸入を一時ストップして、トランプ政権を苦しめましたが、これは過去のトランプ政権の関税政策を教訓に大豆の輸入先をブラジルなどに変更したからです。中国も不動産不況や同一業種での過当競争から、経済の調子がよくありません。中国経済に影響が出ないよう、細心の注意を払っているようです。
また、中国は今回、レアアース規制には慎重になると思います。ご存じの通り、中国は最近、米国にレアアース規制をかけましたが、10月の米中首脳会談で規制を停止しました。中国が停止に応じた背景の一つには、警戒した米国がオーストラリアなどとレアアースの採掘や精錬などでの協力に乗り出した事情もあったと思います。中国が採掘・精錬市場をほぼ独占しているのは、技術力があるからではなく、単価が安いからです。各国が国策で採算を度外視して取り組めば、中国の強みが消えてしまいます。だから、中国にとって「レアアース規制はあまり抜きたくない伝家の宝刀」(専門家の一人)なのです。
一定のリスクとったか
では、冒頭に挙げた日本文化に対する規制をどう読み解けば良いでしょうか。