北朝鮮最高指導者の「トリセツ」 入念に演出すればするほど見える「金正恩体制のゆらぎ」

北朝鮮の最高指導者である金正恩氏が見せるパフォーマンスには振り付けを担う部署の存在があります。時には涙を流すまで「待つ」ほどの演出の裏にあるものとは。
牧野愛博 2025.09.14
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北朝鮮の金正恩総書記が忙しく動き回っています。記録写真や映像に出てくる金正恩氏は余裕しゃくしゃくの表情で、外国の元首と会談したり、部下に指示を飛ばしたりしています。でも、この様子を子細に眺めていて、私は、金正恩氏と側近たちの「権力掌握に対する不安と焦り」を強く感じるのです。

最近の20日間程度の金正恩氏の行動はこんな感じです。8月下旬、ロシアで戦死した兵士に対する国家表彰授与式を2回に分けて行いました。9月1日に新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星20」の開発状況を視察した後、2日から5日まで訪中し、ロシアのプーチン大統領、習近平・中国国家主席と相次ぎ会談。8日には新型ICBMの固体燃料の燃焼実験を視察し、併せて地方病院の建設状況も視察しました。建国記念日の9日には国旗掲揚および中央宣誓集会に出席して演説しました。

金正恩氏は独裁者ですが、自分勝手に動けるわけではありません。複数の脱北した元朝鮮労働党幹部らの証言によれば、北朝鮮には金正恩氏を補佐する秘書室があり、各省庁や軍、党から派遣された中堅幹部200人程度が勤務しています。秘書室のメンバーは各機関からの報告事項を整理して金正恩氏に報告したり、逆に金正恩氏からの指示を伝えたりします。

振り付けは「秘書室」の大事な仕事

秘書室の重要な仕事に、「最高指導者の一挙手一投足の振り付け」という事業があります。独裁国家ですから、最高指導者の行動は極めて重要です。元幹部の一人は「金正恩がどう動くかによって、体制の維持に大きく影響する」と語ります。そこで、秘書室は金正恩氏に対して様々な振り付けを行うのです。過去、「愛民政治」を掲げて下着のシャツに麦わら帽子といういで立ちで地方視察をしたのも、一昨年に開いた「全国母親大会」などで涙を流したのも、すべて演出です。

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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