トランプはメロスにはなれない 不信のるつぼの米社会、「政権は終わってる」?
今から半世紀ほど前、小学校で劇をやりました。台本は太宰治原作の「走れメロス」。自分が処刑されることを承知で、身代わりとなっていた友を救ったメロスと、人を信じることの大切さを知った王の物語です。私は門番か何かの端役でしたが、物語に感動したことを覚えています。
私のこんな古い記憶がよみがえったのは、10日に起きた米右派の政治活動家チャーリー・カーク氏殺害事件を巡り、米国内が「不信のるつぼ」と化している状況を耳にしたからです。第1次トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏は保守系メディアの対談で「チャーリー・カーク氏は戦争の犠牲者だ」と発言しました。保守系FOXニュースの人気パーソナリティであるジェシー・ワッターズ氏は「私たちは彼(カーク氏)の死の復讐をするつもりだ」「彼ら(リベラル派)は私たちと戦争をしているんだ」と語りました。
一方、SNSでは、カーク氏の死について「自業自得」「神の贈り物」などと嘲笑する声もあがっています。英紙ガーディアンなどによれば、教師や公務員、大手航空会社の職員らがこうした投稿をとがめられ、停職や解雇などの処分を受けているそうです。カーク氏は生前、銃規制に反対し、DEI(多様性・公平性・包括性)を否定する発言を続けていました。
相次ぐ政治への暴力と深まる分断
米国では今年だけでも4月にペンシルベニア州知事公邸放火事件、6月にミネソタ州議員2人と家族に対する殺傷事件など、政治への暴力が相次いでいました。そんななか、本来は国民の統合を目指すべき最高指導者の地位にあるトランプ米大統領自身が、分断をあおっています。トランプ氏は9月11日、記者団に「過激な左派の狂人どもがはびこっている。我々は彼らを徹底的にたたきのめす必要がある」と発言。12日にはFOXニュースに出演し、「「彼(容疑者)が有罪となり、死刑になることを願っている」とも語りました。
元々、トランプ氏の発想は、田中真紀子元外相の「人間には家族と使用人と敵の三種類しかない」という発言をほうふつとさせます。かつて蜜月関係にあった米富豪、イーロン・マスク氏に対しても減税法案を巡る対立から「失望した」「(マスク氏は)クレイジー」などとSNSに投稿しました。第2次トランプ政権になり、国家安全保障会議(NSC)や国務省など政府機関で大幅なリストラが行われています。ワシントンに住む米政界に詳しい知人は「トランプは第1次政権の際、官僚に邪魔されて自分の覆い通りにならなかったと考えている。報告書も調整は後回しですぐに自分に報告するよう厳命している」と語ります。

トランプ米大統領
米社会で深刻化する分断は、共和党と民主党支持者の間だけではなく、トランプ政権内部でも起きています。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、連邦捜査局(FBI)が数十人以上の職員に対してポリグラフ(うそ発見器)を使い、パテル長官への忠誠心を確認するような質問をしていたそうです。現長官のパテル氏は元々、熱心なトランプ氏信者として知られ、トランプ氏を巡る疑惑を捜査してきたFBIに批判的な人物です。
いきなりポリグラフを使うということが本当にあり得るのでしょうか。