「ドンロー主義」が破壊する戦後の世界秩序 ベネズエラへの軍事作戦で浮き彫りになった日本の不安

新年早々飛び込んできた衝撃的な米軍によるベネズエラへの軍事介入。「力による現状変更」そのものの行為ですが、その影響は日本を含む東アジアの安全保障にも無関係ではありません。
牧野愛博 2026.01.11
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トランプ米大統領は3日、ベネズエラのマドゥロ大統領夫妻を拘束したと発表しました。この瞬間、日本政府が中国を念頭に力を入れてきた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想は事実上、終わりを告げました。ベネズエラでの米軍による軍事作戦は、FOIPが反対を唱えた「力による現状変更」そのものだったからです。

今後、台湾や朝鮮半島を含む東アジア情勢はどうなっていくのでしょうか。中国研究で知られる米ボストン・カレッジのロバート・ロス教授にお話を伺いました。

ロバート・ロス教授

ロバート・ロス教授

ロス教授はトランプ外交の基礎にあるもののひとつが、MAGA(「米国を再び偉大に」を唱える政治運動)だと指摘します。ロス教授は「トランプ氏のMAGAアジェンダは、遠隔地域における米国の安全保障上の役割を縮小し、他の地域大国との戦略的協力を強化し、西半球外での米国の戦争リスクを減らします」としたうえで、「東アジアの大国関係や地域の安全保障秩序も変わる」と予測します。

ロス教授によれば、トランプ政権は、米国が東アジアを含む世界にあまりにも深く関与しすぎていると認識しています。同時に、中国が台頭するなか、米国の相対的な能力が低下しています。このため、「米国は他の大国との紛争に、より慎重になるとともに、自国の経済を再建する必要があります」(ロス教授)。

日本は「大国間調整を邪魔」している?

トランプ政権が昨年12月に発表した国家安全保障戦略(NSS)も「非干渉主義」を掲げています。ロス教授は「トランプ氏はモスクワとウクライナを、北京と台湾や東アジアをそれぞれ管理したいと考えています」と語ります。日本が中国に挑戦的な態度を取ることは、トランプ氏の目には「米中による大国間調整を邪魔している」と映っているのだそうです。

でも、トランプ氏は昨年、韓国に原子力潜水艦の建造を認め、台湾への新たな武器売却を認めました。この動きは、同盟国・パートナーを支援する動きではないのでしょうか。ロス教授は「米国は台湾に多くの武器を供給していますが、政治・外交的な支援は以前よりはるかに減っています。台湾に武器支援をするほど、米国が台湾防衛を約束する必要は減ります。在韓米軍も減らすでしょう」と語ります。米国による支援は、「同盟の強化」というよりは「同盟からの自立」を求める行為だというわけです。韓国や台湾にしてみれば、こうした支援は逆に韓台の安保を危うくする「毒まんじゅう」なのかもしれません。

そして、MAGAと並び、トランプ氏の外交姿勢に大きな影響を与えているのが「取引」です。安全保障を経済交渉に置き換えてしまうのが、トランプ氏の弱点とも言えます。米メディアの報道によれば、昨年5月ごろから、トランプ米政権内でルビオ国務長官を中心に、マドゥロ氏排除を求める声が顕在化しました。ただ、トランプ氏はベネズエラの石油資源にばかり関心が向いていました。当初は米メジャーで唯一、ベネズエラで創業するシェブロンの利権確保にこだわるあまり、ベネズエラ攻撃にも消極的だったそうです。MAGAの要求とともに、「経済」「取引」がトランプ氏の決断を大きく左右するのです。

トランプ氏はどう動くか?

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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