「火中の栗」を拾う必要はない 安全保障めぐる「日米一体化ありき」を不安視する理由

日本へのさらなる防衛費負担増を求めるのではないか? そんな臆測もあった日米防衛相会談でしたが、発表内容だけを見れば穏当な内容でした。ただ、牧野記者はある一文に注目しました。
牧野愛博(朝日新聞専門記者) 2025.04.06
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中谷元防衛相とヘグセス米国防長官が3月30日、防衛省で会談しました。第二次トランプ政権下では初めてとなる対面での日米防衛相会談とあって、トランプ政権による日本の防衛費負担増についてのやり取りに関心が集まりました。

会談冒頭、握手する中谷元・防衛相(右)とヘグセス米国防長官=2025年3月30日、東京・市谷の防衛省、代表撮影

会談冒頭、握手する中谷元・防衛相(右)とヘグセス米国防長官=2025年3月30日、東京・市谷の防衛省、代表撮影

防衛省が発表した会談の概要資料を見る限り、バイデン前政権時代からの課題や合意事項を、ほぼそのまま踏襲した手堅い内容になった印象を持ちました。一方、私は資料のなかで「(両閣僚は)在日米軍の統合軍司令部へのアップグレードの開始を含む具体的な進展を歓迎」という一文に注目しました。

皆さんがご存じの通り、3月24日に陸海空の各自衛隊を一元的に指揮する統合作戦司令部が発足しました。これを受け、日本政府や議員の一部には「在日米軍にも、自衛隊の統合作戦司令部のカウンターパートが必要だ」という声が上がっていました。日本に所在する米軍各部隊を作戦上指揮する権限は、平時はハワイにあるインド太平洋軍司令部の下にある各軍種司令部が握っており、戦時には統合任務部隊(JTF)が編成され、その中に組み込まれます。在日米軍司令部は従来、日本の領域内に存在する米軍の地位や扱いについて日本政府と調整する権限を持つだけです。

米国の意図とは?

ただ、米国は在日米軍司令部に大規模な作戦に関する指揮権を与える考えはないようです。30日の発表資料にある「在日米軍の統合軍司令部」について、「戦闘や作戦に関しより大きな責任を持つ」という一般的な表現を使い、これがどの程度の作戦を指揮する司令部なのかは曖昧にしたままだからです。

陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「在日米軍司令部に本格的な作戦上の指揮権を与えると、政治上、また軍事上、様々な不都合が生まれるからです」と語ります。ヘグセス氏は30日の会談で「中国共産党の軍のその威圧に対応する上で、日本は私たちにとって不可欠なパートナー」と語りました。松村氏は「米軍が対中国を念頭に日本に本格的な作戦司令部を置くとすれば、それは日本領域のみならず、台湾を含む西太平洋地域での作戦を指揮する司令部になります。その受け入れを巡って、日本で政治的な問題になるでしょう。米軍にとっても中国軍の様々なミサイルの射程圏内に入る日本に作戦司令部を置くことは軍事的に合理的ではありません」と語ります。

日本側の一部には、「反撃能力を行使する際、自衛隊の統合作戦司令部と調整する米側司令部は日本にあった方がよい。ハワイと東京での協議では時差もある」という意見もあります。これについても、松村氏は「中国本土にミサイルを撃ち込むという影響力の大きい作戦判断が出先の司令部に任されることはなく、結局インド太平洋軍司令部以上との調整が必要になります。現代の軍事的な調整はほぼデジタル化されたシステムで行われるので、ハワイとの調整になっても大きな問題ではないでしょう」と語ります。

では、30日の会談で合意した「在日米軍の統合軍司令部へのアップグレード」とは何を意味するのでしょうか。

在日米軍への本格的な指揮権付与は果たして必要なのか?牧野記者は、安易な「日米一体化ありき」を否定的に見ています。その理由とは。

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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