あなたの住む場所も戦場になるかもしれない 日本の四方を守る海が「頭痛のタネ」に?

イランとイスラエル、そして米国も関与することになった交戦は、いつ市街地が戦場になってもおかしくない現実をつきつけました。日本はどう立ち回ればいいのでしょうか。
牧野愛博 2025.07.06
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米軍によるイランの核関連施設への空爆は世界の注目を集めました。その後はめまぐるしい展開をたどりました。現地時間6月23日にイランがカタールにある米軍基地に反撃した直後に、交戦中だったイランとイスラエルが停戦合意したとトランプ米大統領が発表。いまのところ停戦は維持されているように見えます。

ただ、そこに至るまでに、トランプ氏が空爆直後のSNSに「今こそ平和の時だ」と投稿してイランの反米感情に火をつけたり、停戦後もお互いが「やられたらやり返す」という姿勢を強調したりと、予断を許さない状況は続いています。イランとイスラエルがお互いの大都市を攻撃し合ったこの事例から感じるのは、世界のすべての場所が、ある日突然戦場になってしまうという事態です。

閑散としたテヘランの通り

閑散としたテヘランの通り

イスラエルは6月13日から始めたイランとの交戦で、様々な軍事施設や要人の居場所を正確に狙い撃ちしました。以前にお話をした対外諜報機関モサドの力によるところが大きいと思いますが、さらに驚かされるのが、テヘランに秘密の無人機(ドローン)工場を作って攻撃に備えていたという報道です。敵の首都で、攻撃用の兵器を大量生産するなんて、本当に可能なのでしょうか。

陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「ドローンは非軍事分野でも数多く使われているから、ごまかしやすいと思います。イランもドローンを生産しているので、部品自体はイラン国内でも簡単に手に入ったでしょう」と語ります。輸送や農薬散布に使うためのドローンとして生産すれば、怪しまれません。実際、一部は民間用のドローンを生産していたかもしれません。火薬も市販の材料を使って製造が可能です。こうした物資を大量に購入しても怪しまれないような、「表向きの仕事」も用意していたでしょう。

また、ロシアによる侵攻を受けているウクライナは今年6月、ロシア国内の空軍基地4カ所をドローンで一斉に攻撃し、戦略爆撃機など約40機のロシア軍機を破壊する「蜘蛛の巣作戦」を実施しました。ドローンは移動式家屋やトレーラーから飛び立ち、近くのロシア軍基地を攻撃しました。驚かされたのは、モスクワから5千キロも離れたシベリア東部のイルクーツクにある空軍基地も攻撃されたことです。ロシアのような戦略的縦深がある国でも、ある日突然、戦闘が起きることを、この作戦は証明しました。

ウクライナはロシアの軍事基地だけを狙いましたが、ロシアはウクライナの市街地を次々攻撃しています。そればかりか、ウクライナを支援しているフィンランドやポーランド、チェコなどでは、ロシアが仕掛けたとみられるインフラ施設の破壊、中東からロシア経由で入り込んだとみられる大量の越境者、サイバー攻撃、妨害電波によるGPS(全地球測位システム)の混乱などがたびたび発生しています。

イランも今後、警戒が緩むのを待ち、中長期的に米軍や米国人を狙ったテロ活動を行う可能性があります。イランに駐在した経験がある日本の元外交官は「イランの中央政府は完全に国内を統率しきれていない。強硬派が独自の判断でテロに走る可能性も否定できない」と語ります。

では、日本は大丈夫でしょうか。

四方を海に守られている日本。ただ、ドローンの登場などでその前提が覆されかねません。現場を知る元自衛官や警察関係者はどう見るのか。取材しました。

日本への侵攻は至難の業なのか?

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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