スマホを持っているだけで監視される? 北朝鮮製のスマホから韓流ドラマが流れる日は来るか
今年4月、韓国通信大手「SKテレコム」に対するサイバー攻撃が明らかになりました。韓国の官民合同調査団の報告によれば、加入者を識別するID番号を記録したSIMカード情報が流出した可能性があるそうです。その数、なんと約2700万件。人口約5100万人を数える韓国の約半数にあたる数字です。SKテレコムは、実害は確認されていないとしていますが、事態を受け、SIMカードの交換を実施しています。韓国政府は何者の攻撃によるのか、断定は避けています。
この件に関連して、情報セキュリティー大手「トレンドマイクロ」のセキュリティーエバンジェリスト岡本勝之氏に話を聞きました。岡本氏は「SIM情報は非常に価値が高いため、一般的なサイバー犯罪でもよく狙われます」と語ります。スマホに入っている個人情報を盗み取り、スマホの持ち主に成りすますことも可能です。最近は、北朝鮮が米国などのIT技術者に成りすまして、米企業でリモートワークの職を手に入れていることが話題になっています。北朝鮮は米国などの協力者を得て、口座やホームページを偽造していたそうですが、スマホの乗っ取りも身分を偽造する有力な手段になります。
また、岡本氏によれば、過去に起きたスマホに対するサイバー攻撃では、金銭を狙うケースと情報を盗み取るケースが目立つそうです。岡本氏は金銭目的のサイバー攻撃について「スマホに不正アプリをダウンロードさせ、スマホでやり取りする情報を盗み取ります。ネットバンキングやSMSによる送金システムを不正操作し、お金を窃取します」と語ります。こうした不正アプリが画面に表示されることはないため、利用者が、気が付かないうちにお金を盗み取られてしまうのだそうです。
さらに、過去の報道などを見ていくと、中国の香港や新疆ウイグル自治区などで、反政府関係者のグループのスマホに不正アプリを送り込み、情報を盗み取る事例も報告されているそうです。
まさか自分のスマホが…
私もソウル特派員時代、スマホを新しい機器と交換するため、支局近くの携帯ショップに出かけたことがあります。その際、通信アプリなどに残る情報を新しい機器に移すため、Gメールのアドレスを提供するよう求められました。詳しい仕組みはわかりませんが、ショップの担当者に「そこに従来のデータをいったん送り込み、そのうえで新しいスマホに送り込むのだ」と教えられました。
私がアドレスを教えると、担当者はしばらく操作していましたが、「あれ」「おかしいな」とつぶやき始めました。どうしたんだろう、と思っていたところ、担当者は困った顔でこう言いました。「このアドレスはもう使われていますね。こんなことは初めてです」。ここからは、私の推測ですが、何者か(おそらく、私が勤務していた国のそういうことを担当している機関)が、私のスマホのデータをリアルタイムで抜き取っていたようです。私はその日から、「スマホは誰かに見られている」という前提で仕事をするようになりました。
北朝鮮製のスマホ1台9万5千円
それでは、スマホを操作して、自分たちが拡散したい情報を伝播させることは可能なのでしょうか。実は、人口2500万人足らずの北朝鮮で600万台以上の携帯電話が利用されています。2010年代半ばからスマホも登場し、結構な割合に上っている模様です。100ドル(約1万5千円)もあれば、家族が1カ月暮らすことに困らない北朝鮮で、スマホは一台あたり500ドル(約7万5千円)以上します。それでも、市民は借金したり、結婚指輪の代わりにしたりして、何とかスマホを手に入れようとするのだそうです。自由のない北朝鮮で、貴重な情報をやり取りするツールだからでしょう。

その北朝鮮のスマホを通じて、ハリウッド映画や韓流ドラマ、K-POPの音楽などを送り込めたら、どうなるのだろうと考えてしまうのです。