「秘密の海」に飛び込んだ政治家の甘さ 他人事ではない米国防長官をめぐる騒動

「ありえない」。ヘグセス米国防長官の情報管理についての騒動を聞いた元自衛隊情報本部の知人は牧野記者に驚きを示しました。日本でも問題が指摘される、政治家と機密情報秘匿のあり方とは?
牧野愛博(朝日新聞専門記者) 2025.04.27
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米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は20日、ヘグセス米国防長官が妻や弟らとでつくる通信アプリ「シグナル」のチャットグループで、3月に実施したイエメンの親イラン組織フーシに対する軍事作戦の詳細を共有していたと報じました。米CNNは、ヘグセス氏が就任当初、外国要人らとの会談にFOXニュース元プロデューサーの妻を同席させていたとも伝えています。かつて自衛隊情報本部に勤めていた知人は「ありえない。一体何をやっているんだ、というのが正直な感想」と語ります。

石破茂首相と会談するヘグセス米国防長官=2025年3月30日、首相公邸、代表撮影

石破茂首相と会談するヘグセス米国防長官=2025年3月30日、首相公邸、代表撮影

政府の仕事には秘密がつきものですが、軍事作戦は特に自軍兵士を危険にさらすため、徹底した情報の秘匿が求められます。第2次世界大戦では、ミッドウェー海戦(1942年6月)や、山本五十六連合艦隊司令長官の搭乗機撃墜(43年4月)などで、日本側の暗号が米側に解読されていました。ヘグセス氏が妻らと共有したチャットでは、フーシに対する攻撃時間などが共有されていたという報道もあります。

情報の世界の常識とは

情報の世界には「Need to Knowの原則」があります。本当に必要とする者だけで情報を共有するという意味です。知人の場合、毎日、様々な情報に関する文書が届けられました。秘密度が高くない文書は庶務係が届けて、「未決裁」の箱に入れてくれます。知人が文書を読み、署名捺印して「決裁済」の箱に入れると、また、庶務係が取りに来て、別の幹部のところに持っていったということでした。

ところが、情報の秘匿度が上がると、その文書を読む資格(セキュリティー・クリアランス)を持つ人間が直接、知人のところまで届けに来ました。内部の人間とはいえ、資格のない庶務係には見せられないからです。権限を持った人間が文書を知人に渡した時間についても記録していました。例えば、朝日新聞が防衛省・自衛隊に関する「知ってはいけない情報」を記事にしたとき、「報道した時間の前に読んだ人間が怪しい」と判断できるからです。

日本でも政治家の甘い情報管理の実態を牧野記者が取材で明らかにします。防衛省幹部になった政治家の信じられない振る舞いを伝えています。

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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