トランプ氏の虚栄心と無知が米艦隊を崩壊させる 米空母の過酷な実態と乗員の「絶望」

米空母リンカーンが最近まで連続240日配備という異常事態に見舞われました。強いストレスにより、艦内は乗員が絶望するほどの過酷な環境です。限界を迎えた米艦隊の運用システムにトランプ氏の虚栄心と無知が加わるとき、日本周辺の安全保障にはどのような危機が訪れるかを考えます。
牧野愛博 2026.08.30
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AP通信などは8月、横須賀を母港とする米空母ジョージ・ワシントンが中東に到着したと報じました。ワシントンは、長期展開が続いていた空母エイブラハム・リンカーンと交代しました。リンカーンは、イランとの戦闘に対応するため、連続洋上配備が240日以上にのぼっていました。リンカーンは今週、休息のためにタイに入港する見通しです。この配備にはそもそも無理がなかったのか、11隻を数える米空母の陣容に影響は出ないのか。元海上自衛隊海将補で徳島文理大総合政策学部の高橋孝途教授(国際政治・安全保障論)にお話を伺いました。

私もソウル特派員時代、洋上航海中の空母ロナルド・レーガンで1泊したことがあります。日帰り取材のはずが、航空機が故障したためです。広い食堂で、ワラジのように大きなステーキを食べました。デザートは、ものすごく甘いオーストラリアのチョコレート菓子「ティムタム」でした。艦内も見学しましたが、トレーニングルームで乗員たちが汗を流していました。わかりやすさを強調したのでしょうか、兵器の発射手順がイラスト入りで壁に描かれていたのが印象的でした。

空母は巨大です。リンカーンの全長は約332.9メートルで、飛行甲板の幅は約76.8メートルです。乗員は航空部隊を含めると5千人を優に超えます。小型都市のような状態で、これなら、長期間の航海も大丈夫なのではと思ってしまいます。

巨大な「動く都市」の過酷すぎる実態

高橋教授は護衛艦しまゆきの艦長だった時代、1カ月程度の洋上訓練を行ったそうです。高橋さんは「空母よりはるかに小さいという事情もありましたが、1カ月もすると、イライラしたり、足腰に痛みが出たりする乗員がいました」と語ります。鉄板の上ですから、立っているだけで負担ですし、勤務中は立ちっぱなしや、暗い部屋で過ごさなければいけない乗員もいます。

空母エイブラハム・リンカーン=米海軍のHPから

空母エイブラハム・リンカーン=米海軍のHPから

米メディアによれば、リンカーンでは飲料水をめぐる問題や郵便システムの混乱などにより、乗員に強いストレスがかかっていたそうです。乗員は家族に、お粗末な食事や衛生用品の不足を訴えましたが、驚いた家族が送った品物は軍用郵便の混乱で留め置かれていたようです。乗員の1人が8月、海に転落または飛び込んだとされ、救助される事案も起きました。高橋さんは「米海軍はドライネイビーと呼ばれ、艦内の飲酒を一切禁止しています。洋上で作る飲料水は不純物がないため、ミネラルが不足しておいしくありません。寄港できないと娯楽も限られます」と語ります。高橋さんも過去、米海軍関係者から「長期洋上勤務になると、海に飛び込もうとする乗員も出てくる」と聞いたことがあるそうです。

AP通信によれば、リンカーンは昨年11月21日に米サンディエゴを出港し、今年1月に中東に到着しました。2月末から始まったイランとの戦闘のため、郵便の配送に問題が生じるなどしたほか、当初予定していた5月の帰港も難しくなったそうです。

また、米軍事専門メディア「タスク&パーパス」は8月、イランによる攻撃でバーレーンやアラブ首長国連邦(UAE)などの米軍基地や物流拠点が破壊されたため、米軍は空母などへの補給物資をディエゴガルシアやシンガポールから長距離輸送することを強いられたそうです。冷凍食品はともかく、野菜などの生鮮食品の欠乏につながり、食糧事情の悪化を招いたようです。これはこれで、将来、台湾や朝鮮半島で有事になった場合、米軍の物流・補給拠点として在日米軍基地がターゲットになることを暗示しています。

限界を迎える運用サイクル

今回、リンカーンが見舞われた長期航海という状況は、11隻を保有する米空母の展開に問題を生まないのでしょうか。

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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