伝統は他者排除の免罪符なのか? 日本を覆う「分断」の危機と「包摂」の必要性
日本の国旗を公然と傷つける行為に刑罰を科す国旗損壊処罰法と、皇族数を確保するための改正皇室典範が、17日の参院本会議で自民、日本維新の会、国民民主、参政などの賛成多数でそれぞれ可決、成立しました。前者については「表現の自由や思想・良心の自由を侵すのではないか」、後者については「女性天皇が誕生する道を事実上ふさぐのではないか」という指摘が出ています。私は最近の米国の動きを見ながら、この二つの法律が日本の将来を危うくする起点になるのではないかという思いを持っています。

参院本会議で国旗損壊処罰法が可決、成立し、議場に向かって一礼する木原稔官房長官=2026年7月17日午前10時48分、国会内
政治エリートが煽る「排他の空気」
自民党は国旗損壊処罰法によって守られる利益として「国旗を大切に思う国民感情」を挙げています。皇室典範改正を巡っては国会質疑で、野党から「なぜ女性(天皇)では駄目なのか。なぜ男系男子にこだわるのか」という質問が出ました。
この二つの法律の底流に流れているのは、「経済的な利益よりも、伝統的な日本の価値観を守っていくべきだ」といういわゆる「伝統保守」の考え方だと思います。自民党内にはこの考え方と真逆の「移民などを広く受け入れ、多少日本の伝統が損なわれても、経済的な利益を追求すべきだ」という「経済保守」の考え方を持つ人々もいます。
私は最近、中国出身で早稲田大学政治経済学術院助手の柴思原(ピーター・チャイ)氏にインタビューしました。柴思原氏が最近、オーストラリアのシンクタンク「ローウィー研究所」の論評サイト「The Interpreter」で、日本の各地で、イスラム教徒の土葬やイスラム教の礼拝堂「モスク」建設に対する反発の声が上がっている問題を取り上げたからです。

柴思原氏
柴思原氏の分析として興味深かったのは、「日本政府としての移民を包摂するための政策の不在」と、「政治エリートの行動が世論に与える影響」でした。日本政府はモスクや墓地の問題について地方自治体にほぼ丸投げしています。欧州でよくみられる、移民とどう共生していくのかという規範や語学教育支援、宗教施設などをまとめた指針や法律がありません。
日本に住む外国人は総人口の3%前後ですが、在留外国人数は2025年末時点で412万5395人に上り、前年末比で9.5%増えました。日本の少子高齢化に伴う労働力不足もあり、これからさらに日本に住む外国人(移民)の数は増えていくでしょう。
また、柴思原氏は「政治エリートの動きも、世論に影響を与えます」と語ります。
