日韓の都合は考えない「トランプの世界」 尹大統領罷免と我々に求められるパラダイムシフト
韓国の憲法裁判所が4日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する罷免(ひめん)を宣告しました。60日以内に大統領選が行われます。現時点では、進歩(革新)系の最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表が次期大統領として最有力視されています。新たな日韓関係を待つ最大の課題とは何なのでしょうか。それは、激変する東アジアの安全保障環境のなかで生き抜いていけるよう、日韓関係を進化させることができるか、という問題です。

尹錫悦大統領(韓国大統領府のHPから)
米国は近年、日米韓の安全保障協力の強化を進めてきました。2023年8月の日米韓首脳共同声明「キャンプデービッドの精神」は、「日米韓は、我々のパートナーシップが三カ国の全ての国民、地域、そして世界の安全と繁栄を増進すると信じ、連携して共に取り組んでいく決意である」とうたい上げました。
日米韓協力、強化めざす理由
なぜ、米国は日米韓協力の強化を進めていたのでしょうか。米軍は従来、朝鮮半島有事の際には在韓米軍が韓国軍と共に対応しつつ、在日米軍基地などから補給や増援勢力を送る作戦計画を立てていました。その際、自衛隊と韓国軍がうまく連携できないことが大きな悩みでした。
自衛隊も韓国軍も現在、米軍の指揮系統の情報共有網、GCCS(グローバル・コマンド・コントロール・システム)を一部共有しています。いわゆる「CENTRIXS(セントリクス)」と呼ばれる共有網です。作戦地域の米軍や自衛隊、韓国軍、敵軍の状況が数値でもビジュアルでも把握できるようになっています。日韓は同盟関係にないため、米国は日本版の「セントリクスJ」、韓国版の「セントリクスK」をそれぞれ提供する複雑なシステムを取っています。もちろん、一緒に作戦行動をとるための戦術システムの共有はこれからという状況です。
皆さんは、日米韓による共同訓練のニュースをよく耳にすると思います。訓練の内容をよく見ると、陸上・洋上・航空のいずれの訓練も、日韓それぞれの領域では行われていないことがわかります。これは、韓国側に「自衛隊を韓国領域に入れた場合、韓国世論が黙ってはいない」という懸念があるからです。日本は「日本領域内で3カ国訓練をやるのは構わない」という立場ですが、韓国は「日本領内で訓練をすれば、次は韓国領内でという要求が出かねない」として拒んでいるそうです。
こうした「日米韓協力をどこまで進展できるか」というのが従来の課題でしたが、最近になって状況は思わぬ方向に転がりつつあります。トランプ米政権の誕生です。
尹氏の罷免も含めて、日米韓協力について語るための視点は、今や大きく変わったと考えるべきだと牧野記者は見ています。東アジアで起きているパラダイムシフトを解説します。