「米軍が日本から撤退する日」は来るのか? トランプ大統領の不満を読み解く
トランプ米大統領が6日、「我々は日本を守らなければならないが、日本は何があっても我々を守らない」と述べ、日米安保条約に対する不満を漏らしました。この発言の3日前には、トランプ氏はウクライナへの軍事支援の一時停止を命じたばかりでした。「在日米軍が日本から引き揚げる時も来るのだろうか」と考えた方もいらっしゃると思います。「米軍が日本から撤退する日」は本当にやってくるのでしょうか。

トランプ米大統領
私が政治記者だった1995年、沖縄米兵少女暴行事件が起きました。日本中で米国や在日米軍に対する轟々たる非難が巻き起こりました。その後、楚辺通信所を巡る「象の檻訴訟」、普天間基地返還の発表など、在日米軍を巡る話題が続きました。以来、「米軍と日本との関係」は、私が関心を寄せる取材テーマの一つになりました。2月15日、海上自衛隊の潜水艦「うずしお」を見学するために訪れた場所で再び、「米軍と日本の関係」を巡る様々な考えが私の頭の中を駆け巡りました。その場所の光景があまりに、日本とかけ離れたものだったからです。
日本とかけ離れた風景
道路の表示は「Howard ST」「King ST」。Fleet Theaterには、18時から映画「キャプテン・アメリカ」の上映予告が掲げられていました。私が訪れた神奈川県・米海軍横須賀基地の様子です。埠頭(ふとう)には2隻の大型艦が停泊していました。米第7海軍の旗艦ブルーリッジと原子力空母ジョージ・ワシントンです。この威容こそ、日本を欲している米軍の姿を雄弁に物語っています。横須賀基地だけではありません。同じ神奈川県にある相模総合補給廠(しょう)は、ベトナム戦争の補給拠点として活躍しました。広島県にある秋月、広、川上の各米軍弾薬庫は、単体としては自衛隊の弾薬庫の規模をはるかに上回ります。
サミュエル・ハンチトンの名著「文明の衝突」などは、米国の同盟国である英国と日本の地政学的な意義について語っています。同書は、米国が大西洋・太平洋から欧州・アジアにアクセスしようとした場合、大陸に接していない安全保障で安定した英日両国が存在することが、米国にとって大きな利益になっているとしています。海上自衛隊横須賀地方総監を務めた渡邊剛次郎元海将は「日本に展開している米軍は、日本防衛のためだけではなく、米国のアジアにおけるプレゼンスを担っている面もあります。トランプ氏は米国自身のアジア戦略にとってもデメリットになる在日米軍撤退をカードにしたディールはしないはずです」と語ります。
日本外務省の元幹部も「トランプ氏は、戦争は嫌いですが、米軍の力をディールの手段に使うのは好きなようです」と語ります。トランプ氏は「米国ファースト」を掲げていますが、グリーランドやパナマ運河の所有には意欲を示すなど、「孤立主義」を取らない姿勢も明確にしています。世界に対する米国の影響力を維持したいのであれば、インド太平洋地域に影響力を行使する最重要拠点である、在日米軍基地を放棄するのは道理に合いません。コストカットをするのであれば、最前線である在韓米軍を在日米軍に統合することはあり得ます。ただ、自衛隊と韓国軍が共同作戦を取れる状況にない現在、それも難しい選択肢でしょう。
では、トランプ氏が語る「米国は日本を守るが、日本は米国を守らない」という論法は正しいのでしょうか。
果たしてトランプ氏の見解、考え方には妥当性があるのでしょうか。安保条約の条文や、石破首相の立ち回りなどを元自衛隊幹部らへの取材から牧野記者が解説します。