「極限状態」、トランプ大統領はどうする? 「ハウス・オブ・ダイナマイト」が突いた政権の急所

米国本土にミサイルが着弾する現場を描いたNeflixの映画に注目が集まりました。実際に起きたら、関係者がどのように動くのか? 論理より感情で動くといわれるトランプ政権ならどうなってしまうのか? 考えてみました。
牧野愛博 2025.12.21
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Netflixの新作映画「ハウス・オブ・ダイナマイト」(キャスリン・ビグロー監督)が話題に上っています。米国によるミサイル防衛の現場をリアルに追体験できる作品です。手に汗握る展開で高い評価を得ていますが、さらに話題を集めたのが米国防総省の反応でした。私も早速見てみましたが、「ああ、トランプ政権は怒るだろうな」と感じた点が二つありました。

政権が激怒したわけ

第一の点は、トランプ政権が掲げた「ゴールデンドーム構想」に真っ向からかみつく展開だったからです。映画では、米国がアラスカ州フォート・グリーリー基地から地上配備型迎撃ミサイル(GBI=Ground Based Interceptor)を発射しますが、迎撃に失敗します。あまり話すと「ネタバレ」になるので気をつけますが、映画の中では、「EKV(大気圏外迎撃体=Ex atmospheric Kill Vehicle、弾頭のことですね)の射出に成功した後の命中率は61%」というセリフが出てきます。

米ブルームバーグによれば、米国防総省は10月初め、この映画で扱われたミサイル防衛について同省の担当者に宛てて「誤った仮定に対処し、正しい事実を提供し、より良い理解を提供する」よう指示する内部メモを作ったそうです。メモには、迎撃ミサイルが100%の命中率であることが、数年前からのテストで証明されている、という内容もあったということです。同省はブルームバーグに対し、映画について「(トランプ)政権の見解や優先事項を反映していない」とコメントしたということでした。

ミサイル防衛にケチをつけるのは、確かにタイミングが悪かったかもしれません。トランプ大統領は5月20日、新たなミサイル防衛システム「ゴールデンドーム」の開発構想の詳細を発表しました。極超音速ミサイルなどにも対応でき、トランプ氏の在任中に運用を始めるとしています。ただ、米議会予算局はゴールデンドームを20年間運用する場合、多めに見積もると8310億ドル(約120兆円)が必要になると指摘しています。そんな巨額の予算をつぎ込んだあげくに、撃ち漏らす可能性もあるとなれば大変です。国防総省が「百発百中だ」と言いたくなったのも頷けます。

トランプ米大統領

トランプ米大統領

しかし、どんなに完璧な防衛網を作っても、予期せぬ事態は起こりえます。ミサイルの不具合もあるでしょう。敵が米国の持つ迎撃ミサイルよりも多くのミサイルを撃ち込む「飽和攻撃」の可能性もあります。その点、最近の中国による急激な核戦力の増強、中国・ロシア・北朝鮮の連携強化など、情勢を悪化させるニュースが相次いでいます。

迫るミサイル着弾と描かれた人間性

そして、私が「トランプ政権が怒るだろう」と思った第2の点は、映画で描かれた人間性の問題でした。

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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