沖縄戦の悲劇を繰り返させないためには 日本の防衛と自衛隊駐屯地で考えたこと

自爆攻撃や特攻が相次いでしまった沖縄戦。80年前と今は何が違うのか。人命の尊さ、日本を防衛することの重要性について考えてみました。
牧野愛博(朝日新聞専門記者) 2025.03.30
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3月、日本版海兵隊と評される陸上自衛隊水陸機動団(水機団)が駐屯する陸自相浦駐屯地(長崎県佐世保市)を訪れました。4月1日は米軍が第二次大戦で沖縄本島への上陸を始めてから80年にあたります。水陸両用作戦を駆使して日本の島嶼(とうしょ)防衛を担う水機団について勉強しながら、当時の日本軍兵士や沖縄県民など約20万人とされる戦没者を出した悲劇を繰り返さないためにはどうしたらいいか、考えてみたかったからです。

陸上自衛隊相浦駐屯地

陸上自衛隊相浦駐屯地

沖縄戦の悲劇には様々な要因があります。当初、首里を最終防衛線として戦っていた日本軍第32軍が1945年5月下旬に、南部の喜屋武半島への撤退を決めました。このため、首里より南側に避難していた沖縄県民に数多くの犠牲者が出ました。第32軍の責任は重いと思いますが、本土決戦に備えて時間を稼ぐよう指示していた当時の日本政府そのものに、より大きな責任があります。沖縄の人々の島外への疎開も、44年7月から始まりました。でも、米軍による攻撃や家族離散を望まない人々の考えなどから、島外疎開者は結局約8万人にとどまりました。政府は27日、台湾有事に備え、沖縄県・先島諸島から住民11万人と観光客ら1万人の計12万人を6日間で避難させる計画を明らかにしましたが、「6日もかかるのか」というのが率直な感想です。

そして何よりも80年前の日米両軍の圧倒的な物量の差が、沖縄戦を「勝てる望みのない戦い」にしてしまいました。当時の日本軍は1日あたり120~150発の砲弾を発射するのが一つの基準でした。米軍がその10倍以上の物量で攻撃してくるなか、第32軍は1日10発程度の砲弾しか発射できない状況でした。そもそも、第32軍は当初、3.5個師団の編成でしたが、45年1月に第9師団の台湾転出が決まりました。2.5個師団になった第32軍は最初から、米軍の撃退ではなく、持久戦によって時間を稼ぐしか方法がない状況に追い詰められていました。

侵略戦争を予防するには

水機団の北島一団長(陸将補、3月24日付で統合作戦司令部作戦部長)は「太平洋戦争とウクライナ戦争をみて、未来に侵略を起こさせないためには、相手に『侵略は成功しない』と思わせるだけの十分な力を持つ必要があると私は考えています」と語ります。「私たちが強い存在であって対処能力があると相手が思えば、侵略戦争を予防する力は強化されます。『水陸機動団に奪回されるだけだから、離島攻撃はやめよう』と思わせる必要があるのです」

水機団の北島一団長(当時)

水機団の北島一団長(当時)

水機団は2024年3月、基幹連隊の水陸機動連隊が2個連隊から3個連隊に増強されました。現在の総員は約3400人。水陸両用車AAV7や81ミリ迫撃砲、120ミリ迫撃砲などを装備しています。2月19日から3月7日まで九州・沖縄の各地で行われた日米共同訓練「アイアン・フィスト(鉄の拳)」では、沖縄米海兵隊とともに、敵に占領された離島を奪回するための着上陸作戦について訓練しました。

ただ、様々な不安は残ります。

日本周辺の安全を守るために必要なものとは。AAV7の有用性はありながらも、海洋進出を続ける中国の存在を意識しなくてはなりません。牧野記者が装備面、自衛隊員のメンタル面から読み解きます。

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  • 牧野愛博(まきの・よしひろ)

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